論文紹介
フロアー川上流域における非集中型手法による洪水防御の代替手法(東南ドイツ)
Reinhardt, C., Bölscher, J., Imjela, R., Ramelow, M., Wenzel, R., & Schulte, A. (2012). Alternatives in flood protection: the effect of decentralized measures in the Upper Flöha watershed (Southeastern Germany). In Flood Risk Assessment and Management. Safety and Security Engineering Series 1 (pp. 93-103). WIT Press Southampton, Boston.
この論文は、ドイツの山地河川を対象として、上記のような流域管理の手法により洪水がどの程度減少するかをシミュレーションした論文です。オルバーンハウという都市までを対象としています。図1はコンセプトなのですがとても面白いです。調整池(あるいは遊水池)、河川再生、浸透能力を強化した耕作地、森林の再編、農地の牧草地か、居住地への分散型の水管理(都市のグリーンインフラと同じものと思われる)などの手法です。
分散型のモデルを使って計算した結果を示しています。図は100年確率の雨に対して、32の調整池、氾濫原への植林を行った結果、ピーク流量を約13%削減しています。
表はそれぞれの効果をまとめたものです。上流の街の地点での調整池の効果は極めて大きくなっています。また森林の混交林への転換も大きな効果を示すことが明らかとなっています。しかし、耕作地の牧草地への転換はほとんど効果がありません。
また森林の樹種転換は大きな効果を発揮しますが、時間がかかるとしています。また、このような洪水防御手法は環境への負荷が小さく、それどころか環境が改善される場合が多いと述べてあります。
水田の治水効果
水田の治水効果の研究に関して、いくつかの論文をレビューする。
1.放棄水田の治水効果は?
農水省の農業工学研究所にいらっしゃた増本隆夫さんの研究では、「増本ら(1997b)は北陸地域の中山間水田
を対象に,耕作水田と放棄水田からの実測流出量および土壌調査データに基づき,耕作放棄による流出変化を明らかにしている.圃場が湿潤状態の時には,図―3の例にみられるように,耕作放棄により全ての洪水について流出量や流出ピークが増大する傾向がみられたと報告している.すなわち,管理された中山間地帯の水田には,粗間隙ができやすいことによる浸透量の増大や落水口での水管理により,放棄地より多くの保水機能があると結論付けている. 1993年の放棄水田と耕作水田のピーク流出量の最大値を比流量に換算すると,それぞれ2.7m3/s/km2, 1.0m3/s/km2となる.この差(1.6m3/s/km2)は低平水田地帯の機械排水区並みの排水量(約1.0m3/s/km2)に相当している.ただし, 2.1)に示すように,気象条件によりその傾向は逆転することにも注意を要する.」としている。
増本は、放棄水田は水循環に影響を与えると結論付けている。渇水で農地にひび割れができるような状態の時を除いては、放棄水田の流出は増大することに留意する必要がある。
治水の観点から言うならば、放棄された水田で農地への転換への見込みが当面ないところでは、佐渡島でやられているように湿地ビオトープにするなどの方策が必要と考えられる。